NBAプレーヤー・八村塁選手の会見での発言がにわかに物議をかもしているので、バスケットボールに関わるブログを運営している身として、少し情報を整理して、その上で個人的な意見も発信していきたいと思います。
事の発端
2024年11月14日(日本時間)に行われたロサンゼルス・レイカーズ(以下、LAL)対メンフィス・グリズリーズ(以下、MEM)との試合後の記者会見。
この日、今シーズンからNBAで2way契約を勝ち取り、この試合には出場しなかったものの、MEMのロスターに加わっていた河村勇輝選手に関する日本人記者からコメントを求められた時でした。
河村選手とは日本代表でも一緒にプレーしていましたが、その時の思いがこみあげてきたとか、そういうことはありましたか?
それに対して八村選手は次のように応えています。
NBAの舞台は本当に大変なところ。チームとのケミストリーを上げて、どんどんプレーして欲しい、もっとNBAの試合に出て欲しいと思います。
的な、河村選手を激励するコメントで応えました。
物議を醸したコメント
その後、記者からダメ押しで「日本代表の思い出とかは…?」とコメントを求められたところで、八村選手の「日本代表に対する想い」が語られました。以下は、コメントを原文ママで記載しています。長くなりますが振り返ってみてください。
「日本代表として僕もずっとやってきていて、今まで思っている中で、やっぱりちょっと日本代表のやり方というか、そういうところがあまり僕としては嬉しくないところがあって。日本代表としてやっているなかで、僕もNBAでやっているなかで、チームの強化というか、子供たちのためとか、日本のバスケを強くしていくためにやってきている感じが僕はあったんですけれど、日本代表のなかでその目的じゃなく、僕が思うには少し金の目的があるような気がするので。そういうところではやっぱりもうちょっと……。僕もそういう話はしたんですけれど。
あとコーチのことについても話したんですけれど、やっぱりコーチも日本代表にふさわしいコーチ……僕ら日本代表の男子のトップのプレイヤーたちなので。そういう男子のことをわかっている、プロとしてもコーチをやったことがある、そういう人がコーチになってほしかったので。今回こうやって、そういうふうになってしまったのは僕としても残念だと思っていますし。そういうのは日本代表にも話しての結果の、そういう彼らが決めたことなので。僕としてはそういう姿勢でやっているんだなと思うんで。
でもその中で、子供たちもやっぱりこうやって見ているので。そういうところで僕もNBAで頑張って、日本のバスケが強くなるように頑張っていきたいなと思います」
NumberWebより引用(記事URL:https://number.bunshun.jp/articles/-/863731?page=2)
このコメントはSNS上でもかなりの波紋を呼び、会見の動画もいくつもYouTubeでは投稿されました。
この日の八村選手のコメントでポイントとなるのは以下の部分です。
- JBAは強化ではなく、お金の目的があるように感じること。
- コーチ(≒トム・ホーバスHC)は男子のプロ選手を分かっていない。
- 男子のことを分かっていて、プロリーグでもコーチをしたことがある人が良かった。
事実ベースに考察
上記のポイントを下に、一部憶測も含みますが、考察していきたいと思います。
「JBAはお金目的」発言について
この発言からまず一番最初に僕が思い出したのが、パリ五輪前の欧州遠征直前に行われた、7月5日と7日の国際強化試合・韓国戦でした。
この日、TV中継で観戦していましたが、1つだけ「・・・ん?」と感じたことがありました。それが、こちら↓
試合開始前、八村選手がソロでワークアウトを始めました。
このシーン、個人的にはかなり異様な光景だと感じました。
ちなみに、本場NBAでの試合前ワークアウトの様子はこんな感じです。
動画で紹介されている選手は現代のNBAをかじっている人なら全員が知っていると言っても過言では無い超が付くほどのスーパースター【ステフィン・カリー】選手。
動画を観てわかるように、他の選手が別の場所でアップしている傍でトレーナーとともにアップしています。これが普通なんです。
何故、わざわざ八村選手がただ1人出てきてワークアウトを始めているのか、観てる側としてはかなり戸惑いました。
このワークアウトをSNSやメディア媒体のYouTubeチャンネルでは「八村神対応!」とかもてはやしていましたが、果たして八村個人から出てきた神対応なのか、正直疑問に感じました。
この時点で試合開始時間までまだ40分以上もあります。これは憶測ですが、この裏ではチーム内でミーティングやゲームプランを共有していたのかもしれません。その場にエースとなり得る八村選手がいないまま行われていた可能性もあります。
その後の会見でも、八村選手は「日本代表で勝ちたい」と強調しています。勝つためにチームの方針などを共有する場にいるのではなく、何故か客寄せパンダ的な役回りを担わされたことに疑問を感じたのではないでしょうか?
「トム・ホーバスHCは男子のプロ選手を分かってない」発言について
この発言の背景については、基本的には発信者の憶測の情報しか見当たらないので、ここでは言及しないことにします。
ただ、ホーバスHC実業団チームながらもトヨタ自動車などのチームで選手時代を過ごしています。
- 1989-1990:スポルディング(ポルトガルリーグ)
- 1990-1994:トヨタ自動車ペイサーズ
- 1994:アトランタ・ホークス(NBA※2試合出場)
- 1995:ピッツバーグ・ピラニアズ(CBA)
- 1995-2000:トヨタ自動車ペイサーズ
- 2000-2001:東芝レッドサンダース
その後は女子チームにて指揮を執るようになり、一時期はWNBAのチームでアシスタントコーチも経験しています。
が、経歴が浅くとも欧州のリーグやNBAでプロ選手としてキャリアがあり、その場で契約を勝ち取る難しさはホーバスHCも選手時代に嫌でも思い知っているでしょう。だから、「男子のプロ選手のことを分かってない」は少々乱暴すぎる言い方だったように感じます。
「男子のプロリーグでコーチしている人が良かった」発言について
これは確かに事実として、ホーバスHCは男子のプロリーグでコーチをした経験は全くありません。
合流前・後の八村選手の様子
ここからは合流前後の様子について見て行きましょう。
火種となった(?)W杯後の記者会見でのホーバスHCの発言
個人的にはそこまで問題と感じませんでしたが、火種はここにあったという人も少なくなかったのがこの話題。
W杯でオリンピック出場権を獲得したことを受けて、ある記者からこんな質問が飛び出しました。
パリで勝つためにやっぱり八村選手がいるといないんでは結構大きく変わってくると思うんですが、今後どの様にコミュニケーションを取っていきたいかっていうのを教えてください。
これに対して、ホーバスHCはこのように応えました。
まぁ、僕はもう彼がやりたいんだったら、彼から声かけて良いと思います。
私たちはスタイル変わらないんです。だから彼が来るんだったら、ウチのバスケのやります。当たり前。
是非、彼は入って欲しいけど、彼はもうやりない(言い直して)やらないんだったら、もうこのメンバーで良いTEAMも作りましょう。自信あります!
元となった動画を下になるべく言ったまま記載しましたが、この発言が「ホーバスは八村軽視」「代表には八村不要論」として炎上しました。
これに関しては、個人的には記者のスタンスも良くなくて、W杯でオリンピック出場を決めたのは今いる選手たちであり、その選手たちへのリスペクトがやや欠けているなと感じました。
それに対してホーバスHCもやや苛立ちを覚えているかのような口調にも感じました。
ただ、このホーバスHCの発言が良くない伝わり方をして、八村選手やその代理人が大激怒していたとの情報もあります。
そんな状況を受けてか、その後、JBAを通して発言の意図や趣旨を英語で発信して誤解を解くための声明を出しました。
※参照:バスケ代表ホーバス監督 八村塁への発言の真意を説明「サポートしてくれた」 パリ五輪へ「話続けていく」
その後も両者はアメリカで対面し、ミーティングも重ねて良い関係が築けているとしていました。
合流後の様子
八村選手はパリ五輪出場のために日本代表に召集され、6月下旬にチームに合流しています。
合流直後の会見では、東京五輪の盟友・ベンドラメ礼生選手を見つけて笑みを浮かべる様子もありました。
少なくとも、この時はまだ日本代表の様子に不満をいだいているようには見えませんでしたし、明確にパリ五輪にフォーカスしているのが伺えます。
直接的な態度となって表れたパリ五輪本番
問題のシーンがこちら
このシーンはリアルタイムで見ていなかったのですが、この動画がXで流れてきてから「いや、そんなはずはない…」と心では願っていましたが…。
また、別のところでは「フランス戦のアンスポ(アンスポーツマンライクファウル)2つの退場は、半分は故意だったのでは?説」が出ています。
タイミング的にはハーフタイム後の後半の出来事。ハーフタイム中のロッカールームでチームやホーバスHCに対するイライラが最高潮に達して、「もうどうにでもなれ」的な感情でプレーしていたという説です。
個人的には流石にそれはないと思ってます。というのも、2度目のアンスポを取られたあと、八村選手は驚いている様子があります。これは「は?なんであれがアンスポなの?退場?」的な心境だったことは容易に予測が付きます。
ただ、割と元々そういう選手ですが、いつも以上にディフェンスの意識が低いのはあったので、何か心中穏やかではいられないエピソードが裏ではあったかもしれません。
会見後のJBAの対応
八村選手の会見の後には、島田慎二JBA副会長が「ビジネスと強化は車の両輪」という発言をしつつも、事実関係の確認も行うことを明言。
そして、八村選手の発言から約1週間が経った11/20、JBAの渡辺信治事務総長が以下のようにコメントしました。
代理人を通じて八村選手の発言の内容を確認しました。八村選手は日本にとって大切な選手ですし、その発言は重く受け止めている。
日刊スポーツより引用
強化試合の出場についてはJBA内のミスコミュニケーション。日本代表を良くしたいという思いは常々いろんなチャンネルを通じて聞いていた。ただ、選手個人の意見でヘッドコーチを決めることはない。
引用元URL:https://www.nikkansports.com/sports/news/202411200000836.html
当方のコミュニケーションが拙劣であったことを認め、謝意を示しつつも、少なくとも次のロス五輪まではトム・ホーバスHCの体制で行くことは変えないし、選考においても選手個人の意見で決定することはないと断言しました。
その後の八村選手の反応
渡辺信治事務総長のコメントが出たところで、再び、NBAでの囲み取材の中で八村選手がコメントを残しました。以下、一部抜粋しつつも長くなりますが、また振り返ってみてください。
コーチ(ホーバスHC)が(代表HC続投を)決める前に選手一人ずつに話したっていう話をしたらしいですけど、僕はコーチとも話してないですし、JBAとも話していないです。
僕も日本代表の一員として大きな役割を任されてやってる中で、コミュニケーションも何もなかったですし。そうやってパブリック(公)に嘘つくのはよくないんじゃないかなと思いますね。
僕としては別に(代表でプレーしても)利益もないですし、別に何か得ることはないんです。僕が日本代表でやるときは『日本のために』って(いう思いで)やってる。
そういうところで、こうやって日本代表は活動費が必要だと言ってる中、その活動費は本当にどこに使われてるのかなって話なんですよね。やっぱりプレイヤーファーストだからこそ、プレイヤーが集中してプレーできるとか、そういうところを考えながらやってるからこそ強くなって、そういうのでお金が入ってくるって話だと思うんですね。でも、彼ら(JBA)がやってるのは、僕からしたらプレイヤーファーストじゃなく、自分たちの利益になることを先にやって、そのお金を何に使ってるか僕はわからない。別に僕がこれを別に言わなくてもいいことであって、でも僕は本当に日本のバスケのためを思って言っているだけなので
この発言の後、記者から「本音としては、また代表のユニフォームを着たいか?」と問いかけると、言葉が終わるかどうかのタイミングで以下のように即答したそうです。
もちろんです。やりたいです。もちろんです。
※内容はhttps://number.bunshun.jp/articles/-/863824を参照しています。
※2024年11月28日に渡邊雄太選手からの情報で、八村選手のエージェントが、八村選手にはNBAに集中出来るよう、敢えて外部との連絡を絶っていたことが分かりました。故に、【ホーバスHC→八村選手】の直接な連絡は取れない状態だったとのことでした。
個人的に思うこと
思うところとしては2点あり、1つは「JBAのガバナンス問題」、もう1つは「八村選手とトム・ホーバスHCの確執問題」です。
JBAのガバナンス問題
今回、イチ選手から批判的な発言が出てきていることについては、JBAは重く受け止める必要があると思います。
その後のJBA・島田副会長からのコメントで「ビジネスと強化は両輪」という発言もありましたが、その前提は概ね同意です。ただ、八村選手の異常なソロ・ワークアウトを始めとした、過剰な演出はやはりやり過ぎと言わざるを得ません。
普段のBリーグはエンタメの要素を存分に出していくのは全然アリだと思います。それこそ、NBAでも試合前・中・後のファンイベントでは、選手がファンと積極的に交流しているのもよく目にします。
ただ、国際試合のような、いわば「国同士の代理戦争」のような試合・大会では、八村選手の言うように、勝利することにとにかくフォーカスすることが必要でしょう。
代表が試合で勝つ。
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日本代表を目指して他の若い選手や子どもたちが切磋琢磨する。
↓
そういった選手たちがBリーグや日本バスケ界を盛り上げる。
↓
日本バスケが強くなる。
↓
代表が試合で勝つ。
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こういうサイクルを目指しましょうと八村選手は訴えているように思います。
八村選手とトム・ホーバスHCの確執問題
この両者については、ハッキリ言ってコミュニケーション不足感が否めません。ホントにどちらが良いとか悪いとか、そういう程度の低い問題じゃないと思います。
そのコミュニケーションの部分が戦術の問題なのか、コーチングの問題なのかは、八村選手からフィルムセッションなどの具体的な発言はあれど、実際のところは外野からは分かりません。
ただ、個人的にはこの辺は八村選手がHCのやり方にある程度合わせる必要はあると思います。「名選手、名監督にあらず」という言葉がありますが、その逆「名監督、名選手にあらず」もあると思います。
実際に調べたところ、NBAでも名将と言われるサンアントニオ・スパーズのクレッグ・ポポビッチHCや、NBAの超名門チームで昨シーズン優勝も果たしたボストン・セルティックスのジョー・マズーラHCなど、プロ経験が無いままコーチ業に就いて成功を収めています。先入観は悪なのです。
恐らく本当にホーバスHCから八村選手には連絡はいかなかったのでしょう。ただ、自由主義国・アメリカ出身のホーバスHCの立場で考えたら、【ハイタッチ拒否事件】をキッカケに
八村は私の下ではもうプレーしたくないと思ってるんだな。それなら仕方ない。
と思っても仕方ありません。これは八村に対して怒っているとか嫌っているとか(その可能性も否定できないけど)ではなく、八村の意志を尊重しているのだと仮説します。やはり12人と少ないメンバー構成上、違う方向を向いている選手がいるのはケミストリーの構築に大きな障害を来してしまうからですね。
※2024年11月28日に渡邊雄太選手からの情報で、八村選手のエージェントが、八村選手にはNBAに集中出来るよう、敢えて外部との連絡を絶っていたことが分かりました。故に、【ホーバスHC→八村選手】の直接な連絡は取れない状態だったとのことでした。
また、これも事実として、Bリーグの選手たちを率いてW杯で3勝を挙げ、欧州のチームに勝った実績があります。プロ選手たちを導いて実績を収めています。
この実績に対して「たまたま良い選手が揃ったから勝てた」論を振りかざしている人はHCを軽視し過ぎです。
今後の展望(希望)
とどのつまり、JBAもトム・ホーバスHCも八村選手も、全員が共通している認識は日本代表を強くしたい・日本代表で勝ちたいが最終的なゴールになっているはずです。
まだW杯まで3年、オリンピックまで4年あります。もっともっとコミュニケーションを取って、関係性をまた構築していってもらいたいですね。
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