シュートの決定率がリーグ25位と下から数えて2番目の成績。それなのに、シーズン成績は41勝19敗——。
これは2025-26シーズンのBリーグで、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(以下、名古屋DD)が実際に残した成績です。「シュートが入るチームが勝つ」という常識では、まったく説明がつきません。
この”矛盾”を解き明かしてくれるのが、今回紹介する「4ファクター(Four Factors)」という分析手法です。この記事では、4つの指標の意味を解説したうえで、Bリーグ全26チームの2025-26シーズン全試合を実際に集計し、どの指標が本当に勝敗を左右するのかを検証します。教科書的な説明では終わりません。読み終わる頃には、順位表の見え方が変わっているはずです。
4ファクターとは?勝敗を決める4つの指標
4ファクターとは、バスケットボールの勝敗を決定づける4つの主要スタッツのことです。提唱したのは、NBAで初めて統計アナリストとして雇用されたディーン・オリバー氏。2004年の著書『Basketball on Paper』で発表され、「バスケ版マネーボール」とも呼ばれるこの本は、バスケのデータ分析における古典的名著となりました。
発表から20年以上経った今も、その存在感は増すばかりです。NBA公式サイトには専用の集計ページがあり、Bリーグも公式にこの指標を採用しています。
なぜ「得点」や「シュート成功率」だけではダメなのか?
4ファクターの特徴は、ポゼッション(攻撃回数)あたりで計算する点にあります。
バスケは、チームによって試合のペースが大きく異なるスポーツです。速い展開を好むチームは攻撃回数が多いぶん、得点もリバウンド数も自然と増えます。単純な合計値で比べると、「ペースが速いだけのチーム」を過大評価してしまうのです。
そこで4ファクターは、すべての指標を1回の攻撃機会あたりに換算します。走るチームとじっくり攻めるチームを、同じ土俵で公平に比較できる。これが世界中のアナリストに信頼され続けている理由です。
| 指標 | 意味 | 計算式 | オリバーの寄与度 |
|---|---|---|---|
| eFG% | 3Pに1.5倍の重みを付けた補正済みシュート成功率 | (FGM + 0.5×3PM) ÷ FGA | 約40% |
| TOV% | 攻撃機会のうち、ミスで失った割合 | TOV ÷ (FGA + 0.44×FTA + TOV) | 約25% |
| ORB% | 外れたシュートを攻撃側が回収した割合 | ORB ÷ (ORB + 相手DREB) | 約20% |
| FTR | フリースローをどれだけ獲得できたか | FTA ÷ FGA | 約15% |
※eFG%で3Pを1.5倍にするのは、2点シュートより1.5倍の得点価値があるため
オリバー氏は、この4つのうちシュート効率(eFG%)が約40%と最も重要で、以下ターンオーバー率25%、リバウンド率20%、フリースロー率15%と続くと示しました。
ここで注目したいのは、最重要のeFG%でも寄与度は4割にとどまるという点です。裏を返せば、残りの約6割は「シュートの上手さ」以外の要素。シュート効率で負けていても、残り3つで上回れば勝てる——理屈のうえではそうなります。
では、それは本当に起きるのでしょうか。実例を見ていきましょう。
【実例①】シュートが入らなくても勝てる ― 名古屋DDと琉球
冒頭で触れた名古屋ダイヤモンドドルフィンズを、4ファクターで分解してみます。
eFG%リーグ25位で41勝19敗の中身

名古屋DDのeFG%は49.0%でリーグ25位。26チーム中、下から2番目です。リーグ平均が52.3%ですから、明確に平均以下でした。それでも41勝19敗。何が起きていたのでしょうか。
残り3指標を見ると、答えが浮かび上がります。
- ORB%:36.6%(リーグ2位)
- TOV%:13.5%(リーグ7位)
- FTR:24.7%(リーグ22位)
外れたシュートを執拗に回収し、ミスで攻撃機会を失わない。シュートが入らないぶん、「攻撃回数そのものを増やす」という戦い方です。
決め手は、リーグで唯一の”守備の数字”
さらに決定的だったのが守備です。名古屋DDのディフェンシブ・レーティング(100ポゼッションあたりの失点)は99.6。これは、2025-26シーズンに100を切った唯一のチームでした。2位の長崎ヴェルカが103.2ですから、頭一つ抜けています。
つまり名古屋DDは、「シュートは入らないが、攻撃回数で上回り、相手には点を取らせない」という設計のチームでした。得点だけを眺めていては絶対に見えない構造です。
※CS確定までのチーム分析を行った記事もあります。そちらも是非参照してください。
琉球も同じ構造だった
同様の例がもう一つあります。琉球ゴールデンキングスはeFG%リーグ19位ながら42勝18敗。こちらの内訳は、TOV%が12.8%でリーグ1位、ORB%が39.7%でリーグ1位という極端なものでした。
ミスをせず、外したら自分たちで拾い直す。シュート効率という土俵を避けて、別の土俵で勝負したチームです。
※琉球についても、同様にCS確定までのチーム分析を行った記事もあります。そちらも是非参照してください。
【実例②】長所が1つでは勝てない ― アルティーリ千葉
一方で、逆のパターンも見ておく必要があります。
アルティーリ千葉のORB%は35.9%でリーグ3位。オフェンスリバウンドはリーグ屈指の強さでした。ところが成績は19勝41敗で、下位に沈んでいます。「リバウンドを制する者が試合を制す」という格言が、ここでは通用していません。
原因は明白でした。TOV%が17.4%でリーグ最下位(26位)だったのです。

ここで思い出したいのが、寄与度の違いです。ORB%の寄与度は約20%、TOV%は約25%でしたね。つまりA千葉は、重みの軽い指標でリーグ3位、重い指標でリーグ最下位だったことになります。長所は長所として機能していたのに、それ以上の穴が開いていた。4ファクターは「どの長所が、どれだけ効くのか」まで教えてくれるのです。
26チームで検証:どの指標が本当に効くのか
ここまでは個別のチームの話でした。では、リーグ全体ではどうなのでしょうか。全26チームの全試合データから4ファクターを算出し、勝率との相関係数を計算してみました。
| 指標 | 勝率との相関 | オリバーの寄与度 |
|---|---|---|
| TOV% | -0.805 | 25%(2位) |
| eFG% | 0.745 | 40%(1位) |
| ORB% | 0.243 | 20%(3位) |
| FTR | 0.181 | 15%(4位) |

相関係数は、1(または-1)に近いほど関係が強いことを示します。TOV%がマイナスなのは、「ターンオーバーが少ないほど勝つ」という関係だからです。
理論と一致した点、しなかった点
まず目を引くのが、1位と2位が入れ替わっていることです。オリバー氏の理論ではeFG%が最重要ですが、2025-26のBリーグではTOV%のほうが強く勝敗と結びついていました。先ほど見た名古屋DDや琉球のように、eFG%が低くても勝つチームが複数存在したことが、この結果に影響しています。
一方で、理論と見事に一致した部分もあります。ORB%(0.243)とFTR(0.181)は明らかに相関が弱いという点です。オリバー氏が下位2つに置いた指標が、実データでもきちんと下位2つになりました。「上位2指標が支配的で、下位2指標は補助的」という骨格は、20年以上経った日本のリーグでも成立していたのです。
4指標を合成すると、順位表がほぼ説明できる
さらに、4つの指標を寄与度(40:25:20:15)どおりに重み付けし、相手チームとの差分から合成スコアを作ってみました。このスコアと勝率の相関は0.957。4ファクターだけで、順位表のかたちがほぼ再現できてしまいます。

ただし、ここで一つ面白い事実が見つかりました。eFG%とTOV%の2つだけで同じことをすると、相関は0.952。4指標すべてを使った場合と、ほとんど変わらないのです。
言い換えれば、ORB%とFTRを加えても、勝敗の説明力はほぼ上がらないということ。バスケの勝敗の大部分は、「効率よくシュートを決められるか」と「ミスをしないか」の2点で決まっている、という結論になります。
“裏”4ファクターも見ると、もっとわかる
ここまで自チームの数字を扱ってきましたが、4ファクターにはもう一つの使い方があります。相手チームの4ファクターを計算する——通称”裏”4ファクターです。
相手の数字は、こちらの守備の成績表
考え方はシンプルです。相手のeFG%(Opp eFG%)を低く抑えているなら、それは良いディフェンスができている証拠。相手のTOV%(Opp TOV%)が高いなら、ボールを奪う守備が機能している証拠です。相手側の4ファクターは、そのまま自チームの守備の通信簿になります。
2025-26シーズンで顕著だったのが千葉ジェッツです。攻撃面のeFG%はリーグ8位と特別ではありません。しかし裏4ファクターを見ると、Opp eFG%が48.3%でリーグ1位、Opp FTRも19.2%でリーグ1位。相手に効率よく打たせず、ファウルもしない。42勝18敗という結果の源泉が、はっきり数値に表れています。
リーグ最高の47勝13敗を記録した長崎ヴェルカも同様です。eFG%が57.0%でリーグ1位という攻撃力に加え、Opp TOV%18.8%でリーグ1位——相手から最もボールを奪ったチームでもありました。攻守どちらの数字も突出していたことが、独走の理由だったわけです。
注意点:4ファクターは万能ではない
最後に、公平を期して限界にも触れておきます。
今回の集計では、勝率と最も強く相関したのは4ファクターのどの指標でもなく、ネットレーティング(攻守のレーティング差)で0.971、次いでオフェンシブ・レーティングの0.907でした。
これは当然の結果でもあります。レーティングは「結果」そのものを表す指標だからです。対する4ファクターは、その結果を生んだ過程・要因を分解したもの。どちらが優れているかではなく、レーティングで現在地を確認し、4ファクターで原因を探るという役割分担で捉えるのが正解です。
なお今回の検証は26チーム・1シーズン分のデータであり、サンプル数としては決して多くありません。他のシーズンでは違う傾向が出る可能性がある点は、念のため付け加えておきます。
まとめ|4ファクターで順位表の裏側が見えてくる
この記事のポイントを振り返ります。
- 4ファクターはeFG%・TOV%・ORB%・FTRの4指標で勝敗を読み解くフレームワーク
- 2025-26のBリーグではTOV%(-0.805)がeFG%(0.745)を上回る最重要指標だった
- ORB%とFTRの影響は小さい。上位2指標だけで勝敗の大部分が説明できる
- eFG%リーグ25位で41勝した名古屋DDのように、シュートが入らなくても勝てる
- 逆にORB%リーグ3位でも、TOV%最下位なら勝てない(アルティーリ千葉)
- 相手側の数値を見る”裏”4ファクターで、守備力まで数値化できる
4ファクターの元になるスタッツは、Bリーグ公式サイトのスタッツページで誰でも確認できます。応援しているチームの数字を4つ並べてみてください。「なぜ勝てているのか」「なぜ勝てないのか」を、自分の言葉で説明できるようになるはずです。





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